新規事業における適正な人材とは?向いている人の特徴と選定時の注意点

新規事業における適正な人材の特徴と選定時の注意点について解説します。新規事業は既存事業とは異なるスキルやアプローチを求められることが多く、新規事業に向いている人材を選定する必要があります。人材選定のポイントを押さえて、新規事業に必要な人材を確保しましょう。

新規事業の成功には、入念な準備と十分なリソースの確保が欠かせません。特に、新規事業を動かしていく「人材」は重要です。新規事業は、既存事業とは異なる知識や技術を必要とする場面も多く、立ち上げ経験やノウハウのある人材の任命が求められます。

また、外部環境の変化に素早く対応するためには、効率良く新規事業を推進できる人材を確保して体制を整えることが大切です。では、どのような人材が新規事業に向いているのでしょうか。

本記事では、新規事業に向いている人材の特徴や選定時の注意点について解説します。適正な人材の特徴を理解して、新規事業推進のための体制を構築していきましょう。

新規事業における人材の重要性

新規事業では市場調査や競合調査、自社分析、アイデア創出、ビジネスモデルの検証などさまざまなプロセスを踏んでいきます。ときには顧客の反応を見ながら軌道修正を繰り返すことを求められるため、必要なアクションを的確に実行できる人材を揃えることが重要です。

しかし、新規事業の経験やノウハウを持った人材が社内にいるとは限りません。また、既存事業と並行して新規事業に取り組むため、通常業務を抱えた人材を新規事業に配置できる余裕がある企業も多くないでしょう。

中小企業庁「中小企業白書2017」によれば、新規事業に取り組んだ企業の課題として、新規事業展開の成否に関わらず、すべての戦略方法において「必要な技術・ノウハウを持つ人材が不足している」がもっとも多い結果となりました。

また、新規事業に取り組んでいない企業の課題としても、人材不足が43.8%でもっとも多い回答として挙げられています。

「参考:(中小企業白書 2017)https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap3_web.pdf」

以上のように、多くの企業が必要な技術・ノウハウを持った人材の不足という課題を抱えています。このような状況下で新規事業を推進するためには、社内で新規事業に向いている人材を見極めることが重要といえるでしょう。

また、新規事業の立ち上げは、優秀な人材の育成にもつながります。そのため、新規事業に適した人材を配置して、将来的な成長の基盤となる環境を整えることも大切です。

新規事業に向いている人の特徴

新規事業では、さまざまなスキルが求められます。ここでは、新規事業に向いている人材の特徴を解説します。

チャレンジ精神がある

新規事業はゼロからのスタートなので、初めての試みばかりで道筋が不明瞭です。新しい環境や変化が多い環境でも、常にチャレンジ精神を持って最後まで取り組める人が求められます。

さまざまな困難や課題を乗り越えなければならず、試行錯誤を繰り返す必要もあるため、何度でもチャレンジし続けるメンタルの強さも重要でしょう。失敗をおそれずに高いモチベーションでゴールを目指せる人材は、新規事業に適しています。

論理的に物事を考えられる

新規事業を推進するうえで熱意や積極的な姿勢は重要ですが、それだけでは事業を成功に導けません。大切なのは、あらゆる情報から論理的に物事を分析し、必要なアクションを実行できるスキルを持った人材です。

新規事業では市場調査や競合調査を入念に行い、データ収集・分析を通して、市場や顧客のニーズを把握する必要があります。論理的かつ定量的に市場性を分析することで、説得力の高い根拠と結論をもとに新規事業を推進できるでしょう。

ただし、論理的なデータ分析だけでは自社の特性を活かせないのが課題といえます。論理的に物事を考えつつ、自社の特性を活かせる柔軟な思考力も大切です。

マーケティング力がある

優秀な新規事業のアイデア創出や事業計画ができても、ターゲットとなる顧客に製品・サービスを届けられなければ収益化につなげられません。収益化につなげるには、市場や顧客のニーズを把握・分析するとともに売れる仕組みを作ることが求められます。

そのため、どのようにして顧客へ効果的にアプローチするかといった販売方法やプロモーション方法を戦略的に考えられるマーケティングスキルを持った人材が新規事業には必要です。また、顧客へ効果的にアプローチするには、ターゲットを理解するためのデータ収集・分析スキルも欠かせません。

解決志向である

新規事業では成功の前例がないことがほとんどで、成功のための道筋が曖昧なケースも多いでしょう。どんなに入念に計画を立てても、計画通りに進まないことのほうが一般的です。事業を軌道に乗せるには、試行錯誤を繰り返しながら課題を解決して困難を乗り越える必要があります。

そのため、どうすれば課題を解決できるかを考える力が求められます。できない原因を把握することも大切ですが、それだけでは先に進むことができません。「どうしてできないのか」ではなく「どうしたら解決できるか」を考え、問題点を洗い出して対応していける解決志向の人材が新規事業には必要でしょう。

判断力がある

論理的に物事を考えたり解決志向で課題に取り組んだりすることができても、実行に移せなくては新しい事業を展開することができません。新規事業は手探りの状態で進めることが多く、明確な答えが分からない状況下で物事を判断し、事業を推進していくことが求められるでしょう。

分析結果をもとに導き出した最善の解決策を、勇気を出して実行に移せる判断力を持った人材が新規事業には必要です。

また、チームを牽引できるリーダーシップや決断力を持っている人材のアサインも欠かせません。新規事業が軌道に乗るまでは、何度も軌道修正を繰り返す必要があるため、自ら責任感を持って行動に移せる人材が求められます。

スピード感を意識して仕事に取り組める

新規事業を成功させるには、スピード感が重要です。市場や顧客のニーズは変化しやすいので、ニーズに対応できるようにスピーディーに事業を推進しなければなりません

ニーズを的確に把握するために入念に市場調査や競合調査を行うことも大切ですが、あまりにも調査やアイデア創出に時間をかけすぎてしまうと市場の変化に出遅れてしまう可能性があります。有望なアイデアを創出できたら、素早く市場に出してPDCAサイクルを回すのがおすすめです。

顧客の反応を見ながら素早く修正・改善を繰り返していくことで、顧客満足度の高いハイクオリティの製品・サービスを提供できるでしょう。ただし、スピードを意識しすぎてクオリティやリスクを無視するような人材には注意が必要です。

コストを意識できる

新規事業は立ち上げだけでなく、運営を始めてからも、人件費や経費、ツールの導入などさまざまなコストがかかります。既存事業のように今後の売上予測ができるわけではなく、事業を軌道に乗せるまでは収益がほぼ発生せず、費用のみが発生しているような状態です。そのため、できる限りコストを抑えて新規事業を進めなければなりません。

条件次第で補助金や助成金の活用、融資を受けるなどの資金調達も可能ですが、いずれにしても資金には限りがあります。チャレンジ精神を持って事業に取り組む必要はありますが、コストを度外視するわけにはいかないでしょう。

コストは許容範囲かどうか、費用を削れるポイントや投資するべきポイントはあるかなど、経営者目線でコストや経営状況を意識できる人材は新規事業に向いています。また、収益化が実現するまでの見込みや損失が発生する場合の程度をシミュレーションできるような財務の知識も必要となります。

発想力がある

新規事業で成功するには、市場にまだ存在していないような独創性のあるアイデアの創出が重要です。既存の製品・サービスの模倣では市場や顧客に新しい価値を提供できないため、新規顧客の獲得や収益性は見込めないでしょう。

独創性や優位性のあるアイデアを創出するには、柔軟な発想力を持っている人材が求められます。物事を多角的に考える力があれば、顧客の潜在的な課題や悩みを見つけやすいでしょう。

また、事業を推進していく中でトラブルが発生した際にも、発想力があれば課題解決のための画期的なアイデアが浮かびやすくなります。時代や市場の変化に対応するには、固定観念に囚われず、柔軟な考えを持って事業に取り組める人材が欠かせません。

コミュニケーション能力がある

新規事業では社内外を問わず、多くの人と関わるのが特徴です。チームメンバーや外部リソースとの意思疎通、各部署への連絡・調整、上司や役員への交渉、顧客へのヒアリング、関連企業へのプレゼンなど、さまざまな場面でコミュニケーションを要します。

円滑に新規事業を推進するためには、コミュニケーション能力が欠かせません。新規事業におけるコミュニケーション能力とは単に対話ができる力だけでなく、自分が伝えたいことを相手に伝わるように分かりやすく説明する力や、利害関係者との交渉を行う力も含まれます。

また、コミュニケーションを取ることで、チームメンバーや関連企業、顧客との関係構築にもつながります。信頼関係を構築できればチーム力が向上し、新規事業の成功率を高めやすい環境づくりが可能になるでしょう。

新規事業立ち上げの経験がある

社内に新規事業立ち上げの経験がある人材がいれば、新規事業にアサインしてもらうのがおすすめです。新規事業はゼロからのスタートでノウハウがない状態なので、立ち上げ経験者が一人でもいるほうがメンバーも安心できるでしょう。OJTもしてもらえるため、チームのスキルアップにもつながります。

また、新規事業を立ち上げたものの失敗してしまった経験がある人材も新規事業を推進するうえで有力です。どのような状態になったら撤退すべきかのラインを決める際に、その人材が携わった事業の失敗の経験が参考になるでしょう。

新規事業に適正な人材がいない場合の対処法

新規事業に求められるすべてのスキルを持ち合わせている人材の調達は、非常に難しいです。そのため、すべてのスキルを持つ人材を探すのではなく、それぞれのスキルを持った人材を複数組み合わせて体制を整えるのが最良の方法といえます。

しかし、そもそも新規事業に適した人材が社内にいないケースもあるでしょう。ここでは、新規事業に適正な人材がいない場合の対処法を解説します。

社内で人材を育成する

新規事業を長期的に継続する場合は、社内で人材を育成するのがおすすめです。社内でリソースを確保できるようになれば、社内の申請フローや交渉・調整をスムーズに行いやすく、効率的な事業推進が可能になるでしょう。

育成の方法として、OJTやトレーニングの実施、オンライン学習などが挙げられます。現場で実務的な経験を積めるOJTを実施すれば、即戦力を生み出しやすく効率的なスキルアップも臨めます。

ただし、社内で人材を育成する場合は新規事業の立ち上げに関するノウハウが蓄積されていないと難しいです。知見がない状態で人材育成を行うと、時間や教育コストが大幅にかかってしまったり、育成の方向性を見誤ってしまったりするリスクがあります。

社内にノウハウがない場合は、外部機関の研修に参加したり人材育成を委託したりして、知見を得ると良いでしょう。

経験者を採用する

社内での人材育成が難しい場合は、外部から経験者を採用するのも一つの手です。すでにノウハウを持っているため、即戦力として新規事業の立ち上げにアサインしてもらえるでしょう。

ただし、企業風土に合わなかったり社内の人間との信頼関係を築きにくかったりする可能性もあるので注意が必要です。いくら経験者とはいえ入社してまだ日が浅い人材が事業推進の中心メンバーとなることに、社内から反発が起こる可能性も否めません。

また、経験者が関わった新規事業が、自社の目指すビジネスモデルと一致しているかどうかも重要なポイントです。ビジネスモデルによって必要な知見は異なるため、ビジネスモデルが自社の目指すものと一致していない場合、せっかく経験者を採用しても自社に必要な知見を得られない可能性もあります。

経験者を採用する際は、企業風土に合った人材や、自社が欲する知見を持っている人材を選ぶのがポイントといえるでしょう。

外部リソースを活用する

外部リソースを活用するのもおすすめといえます。オープンイノベーションの活用やプロフェッショナル人材への業務委託、専門家との連携などの方法が挙げられるでしょう。

オープンイノベーションとは、社内外を問わず優秀なリソースを組み合わせて新しいイノベーションを創出できる仕組みのことです。自社にない技術や知識を取り入れることができるので、開発にかかるコストや時間の削減につながるというメリットもあります。新規事業に関わる人材のスキルアップや将来的な成長も見込めるでしょう。

ただし外部リソースを活用する際は、委託範囲や責任の所在の明確化、アイデアや技術などの流出など、注意しなければならない点が多々あります。

外部委託をする場合、外部の人材にどの業務範囲を委託するかを明確にしておかないと、外部リソースが持っている技術やノウハウと自社に必要な知見のミスマッチが起こる可能性があります。自社と外部リソースの業務範囲を明確に区分しておくことで、自社のニーズに合った人材を選定できるでしょう。

また、業務範囲の明確化とともに責任の所在も明確にする必要があります。トラブルが発生した際、責任範囲が曖昧なままだとさらなるトラブルを招きかねません。ほかにも、アイデアや技術の流出のリスクも考えられます。

新規事業の人材を選定する際の注意点

人材の選定を誤ると、新規事業の失敗のリスクが高まるおそれがあるでしょう。そのため、注意点を理解したうえで人材を選定することが大切です。ここでは、新規事業の人材を選定する際の注意点について解説します。

安易なチーム編成は避ける

新規事業は、既存事業と異なるスキルやアプローチを必要とするケースがほとんどです。既存事業の技術やノウハウ、アプローチ、品質レベルなどが、新規事業では通用しないということは珍しくないでしょう。

既存事業でどんなに実績やノウハウがある人材であっても、新規事業で同じように活躍できるとは限りません。既存事業が安定している企業では組織や人材が既存事業に最適化されているため、正解への道筋が見えている状態でなら成果を出せるものの、先行きが不明瞭な新規事業では実力を発揮できない可能性があります。

「既存事業で活躍しているのだから、新規事業でも成果を出せるだろう」という安易な考えは危険です。既存事業の主力となる人材をアサインさせて期待通りの結果を得られなかった場合、その人材のモチベーションの低下にもつながります。

新規事業に不向きな性質であるにも関わらず既存事業で実績のある人材を選定したり、人材不足を補うために安易に経験の浅い人材ばかりを揃えたりするのは、新規事業の失敗率が高まるので避けましょう。

情報共有を綿密に行う

新規事業を成功させるうえで、チームメンバーや利害関係者との連携が欠かせません。連携をスムーズに行うためにも、綿密な情報共有が重要です。

特に外部リソースを活用する場合は、判断ミスの防止や社内リソースとの円滑なコミュニケーションのためにも、より細かな情報共有を行う必要があります。自社の置かれている状況、企業風土、これまでの新規事業の取り組み実績、現場の雰囲気、経営の方向性など、自社にとって不利な情報であっても、新規事業に必要な情報はすべて伝えましょう。

情報共有を徹底することで、業務効率化や生産性の向上、信頼関係の構築などさまざまなメリットが期待できます。社内外を問わず新規事業に関わるすべての人材に、情報共有に対する意識を持ってもらえるような体制の整備やルールの策定が大切です。

まとめ

新規事業を推進していくためには、新規事業に適したスキルを持つ人材が必要です。社内で人材確保が難しい場合は、外部リソースの活用や経験者の採用によって必要なノウハウを獲得でき、成功率を高めることができます。

ただし、自社のニーズにマッチした人材を選定しなければ有効に活用ができません。自社に必要なノウハウや技術は何なのかをしっかり見定めたうえで、人材選定を行うようにしましょう。

本記事でご紹介した新規事業に適した人材の特徴を押さえて、自社に必要な人材の確保にぜひお役立てください。

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