新規事業の立ち上げ方法|基本プロセスと役立つフレームワークを解説

新規事業の立ち上げ方法や活用できるフレームワークについて解説します。新規事業の立ち上げは、企業にさまざまなメリットをもたらす一方で、失敗のリスクも高いのが特徴です。プロセスと立ち上げに必要なポイントを理解して、新規事業の立ち上げの成功率を高めましょう。

社会や市場のニーズの変化が激しい現代社会において、企業が存続するためには新規事業を立ち上げて収益基盤の軸を増やすことが重要です。しかし、新規事業の成功率は1割程度 ともいわれているため、成功させるのは容易ではありません。また、新規事業の立ち上げのノウハウや経験がなく、立ち上げ方法が分からない企業もいるでしょう。

本記事では、新規事業の立ち上げ方法や活用できるフレームワークについて解説します。基本的なプロセスを理解できれば、新規事業の立ち上げの成功率を高められるでしょう。

新規事業の立ち上げが重要な理由

新規事業の立ち上げは、企業にとってさまざまなメリットをもたらします。はじめに、企業にとって新規事業の立ち上げが重要な理由を解説します。

企業の持続的発展を支える

テクノロジーの進化に伴い、社会や市場のニーズは急速に変化し続けています。製品やサービスのライフサイクルの短命化により、既存事業が安定している企業であっても同じビジネスモデルで収益化を続けることは難しくなっているのです

先行きが不透明な現代社会において、企業が安定した収益を生み続けるには外部環境の変化に対応していかなければなりません。新規事業の立ち上げによって自社で新たな収益を生み出せれば、企業の持続的発展につながるでしょう。

経営人材の育成につながる

新規事業の立ち上げには、市場調査やデータ分析、アイデア創出、事業計画の立案・検証などさまざまなプロセスがあります。それぞれのプロセスにおいて求められるスキルや乗り越えるべき壁は多く、チームを率いてプロセスを一つずつ踏んでいかなければなりません。

新規事業の立ち上げを経験することで事業を推進する力が身につくため、経営者視点を持つ優秀な人材の育成にもつながるでしょう。

新規事業の立ち上げに必要なこと

新規事業をスムーズに立ち上げるために、以下の3つの準備をしておくことが必要です。

  • 立ち上げ方法を決める
  • 必要なリソースを把握する
  • 事業撤退ラインを設定する

Step1.目的やコンセプトを明確にする

ここでは、新規事業の立ち上げに必要な準備について解説します。

立ち上げ方法を決める

新規事業の立ち上げ方法は、大きく分けて「既存事業のノウハウや技術を活かす」「既存事業にはないノウハウや技術を取り入れる 」の2パターンあります。

既存事業のノウハウや技術を活かす場合、自社の強みやリソースをそのまま新規事業に活かせるため、新たな市場への参入であっても成功の確率は高くなるでしょう。

既存事業にはないノウハウや技術を取り入れる 場合、社内で立ち上げるケースとM&Aで他社の既存事業 を買収するケースがあります。社内で対応する 場合は、ゼロベースでビジネスを始めることになるので、より多くのリソースと念入りな準備が必要になります。

M&Aで既存事業を買収するのであれば、立ち上げにかかる労力や時間を減らせるため、スムーズに事業を展開できるでしょう。ただし、M&Aを進めるには専門的な知識が必要になり、企業風土や待遇の変化から統合後に人材が流出してしまう可能性も否めません。

新規事業を立ち上げる際は、どのような方法で立ち上げるのかを事前に決定しておくことが大切です。

必要なリソースを把握する

新規事業の立ち上げには、ヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源が必要になります。外部環境の変化に対応するにはスピード感も求められるので、素早くかつ正確に情報収集・分析や検証を行わなければなりません。

そのため、各工程においてどれほどの時間がかかり、どれほどのリソースが必要なのかを把握して準備を進めましょう。人材が足りない場合は外部リソースを活用したり、資金が足りない場合は補助金や助成金の活用、銀行からの融資による資金調達を検討したり、自社の現状に応じた対応が求められます。

ただし、立ち上げ段階から多くの人材をアサインしてしまうと連携スピードが落ち、かえってリスクを高めてしまう可能性もあります。経験やスキルのバランスを見ながら、必要最低限の人材をアサインするようにしましょう。

事業撤退ラインを設定する

どんなに実績がある企業であっても、新規事業が成功するとは限りません。新規事業による損失が大きくなると、既存事業にも悪影響を及ぼし、企業全体の経営を圧迫してしまうおそれがあります。

そのため、新規事業が上手くいかなかった場合でも速やかに撤退の判断を下せるように、あらかじめ事業撤退ラインを設定しておきましょう。撤退ラインを設定しておけば、損失を最小限に抑えて立て直しをはかりやすくなります。

撤退ラインは「いつまでに何をどの程度達成できなければ撤退する」というように、具体的な期間や数値を基準に設定すると良いでしょう。

新規事業の立ち上げ方法|必要な5つのプロセス

新規事業を立ち上げるには、やりたいことから始めていくのではなく、プロセスをしっかり踏んで取り組んでいく必要があります。ここでは、新規事業に必要な5つのプロセスを順に解説していきます。

1:ビジョンを明確にする

新規事業の立ち上げでまず欠かせないのが、ビジョンを明確にすることです。

ビジョンとは、自社がその事業に取り組むうえで最終的にどうありたいのか、社会にどのように貢献したいか、何を達成したいかといった将来的な展望を指します。短期的な目先の利益ばかりを追い求めると、ビジネスとして中長期的な成功を遂げることは難しいでしょう。

ビジョンとは、自社がその事業に取り組むうえで最終的にどうありたいのか、社会にどのように貢献したいか、何を達成したいかといった将来的な展望を指します。短期的な目先の利益ばかりを追い求めると、ビジネスとして中長期的な成功を遂げることは難しいでしょう。

新規事業の立ち上げはあらゆる困難やトラブルが発生しやすいため、ビジョンがあれば軸がブレることなく、一丸となって困難を乗り越えていけるでしょう。

市場や顧客のニーズに対応していくことも新規事業を成功させるためには大切ですが、「自社がなぜその事業に取り組むのか」という軸が特に重要といえます。軸を持って新規事業に取り組めば、自社の強みを活かしながら市場で確立したポジションを得やすくなります。

2:市場調査と競合調査を行う

続いて、市場調査と競合調査を行い、新規事業の立ち上げに必要なデータを収集します。

ターゲットとなる市場の動向やその市場の競合、顧客の悩みなどを調査し、どのようなニーズがあるのか、業界の課題は何なのか、自社にとって何が脅威となるかを把握することが重要です。

せっかく新規事業を立ち上げても、市場や顧客の需要がなかったり収益性が低かったりしては、成功の可能性は低くなるでしょう。そのため、市場性や事業性をしっかり見極めるとともに、事業で活かせる自社の強みとカバーすべき弱みを把握してどのように対応していくかを検討していく必要があります。

市場調査と競合調査をどれだけ行うかによって、新規事業の実現性や成功率は左右されます。そのため、できるだけ多くのデータを収集して、必要なデータを抜き出して分析を行いましょう。市場や顧客のニーズやターゲット層を明確にできれば、その後のアイデア出しがスムーズに行えるようになります。

また、収集したデータを有効活用するにはフレームワークを使うのがおすすめです。新規事業の立ち上げに役立つフレームワークは、後ほど解説します。

3:新規事業のアイデアを検討する

市場調査や競合調査で収集・分析したデータをもとに、顧客のニーズや課題に沿って新規事業のアイデアを創出していきます。いかに優秀なアイデアを出せるかが、新規事業立ち上げを成功させるカギとなるため、もっとも重要なプロセスといえるでしょう。

「誰のどのような課題を解決するために、どのような価値を提供するか」をアイデアとして落とし込み、新規事業で売り出す製品・サービスを具体的に検討していきます。すでに市場にある製品・サービスや競合他社を模倣するだけでは独創性がなくなるため、他社にはない自社ならではの強みを活かせるアイデアの創出が大切です。

他業界の事例や取り組みを参考にしたり、既存の製品・サービスから複数の要素を組み合わせてみたり、あらゆる視点から発想していくと良いでしょう。また、メンバー全員でアイデアを持ち寄ってディスカッションを行ったり、フレームワークを活用したりすることでアイデア創出のアウトプットを効率的に行いやすくなります。

収集・分析したデータと照らし合わせながら、実現性の高いアイデアを絞り込んでいきます。さらに精度を高めるために、有望なアイデアはブラッシュアップを重ねていきましょう。

4:事業モデル・プランを設計する

アイデアが決定したら、どのように事業化していくかといったビジネスモデルを検討していきます。

収益性の有無やヒト・モノ・カネなどのリソースがどの程度必要なのか、製品・サービスの製造に必要なノウハウや技術は何なのか、長期的に継続は可能かなどを整理していきましょう。不足分の補填はどのように行うかも検討し、製品・サービスづくりのための環境を整備していきます。

ビジネスモデルが明確になったら、「いつ」「誰が」「どのようなことをするのか」といったビジネスプランを設計します。新規事業の立ち上げ後はビジネスプランに沿って推進していくため、スケジュールに無理のない現実的なプランを設計しましょう。

また、中間目標や最終目標、目標達成方法についても検討します。5年後、10年後の長期的な目標を設定することも大切ですが、先の目標だけを設定してしまうと結果が出るまでに時間がかかり、モチベーションが低下するおそれがあります。そのため、段階的な目標を立てて1年単位で細かにスケジュールを策定すると良いでしょう。

具体的なビジネスプランに落とし込む際は、フレームワークを活用するのがおすすめです。

5:新規事業をスタートする

ビジネスプランが設計できたら、いよいよ新規事業がスタートとなります。事業スタート後は、プランに沿って進んでいるか、目標が達成できているかなど、定期的にチェックすることが大切です。

新規事業は計画通りに進まないことも多く、トラブルが発生した際は速やかな対処が求められます。そのため、社内外の体制をしっかり整えて事業を推進していきましょう。

また、ターゲット層への検証を行い、顧客のレビューやフィードバックをもとに修正や改善を重ねることも重要です。PDCAサイクル (Plan、Do、Check、Action)を高速に回して軌道修正を繰り返していくことが、新規事業を成功させるために欠かせません。

市場や顧客のニーズは絶えず変化していきます。新規事業を立ち上げて満足するのではなく、常に市場や顧客の声に耳を傾けながらブラッシュアップしていき、事業の精度を高めていきましょう。

新規事業の立ち上げに役立つフレームワーク

新規事業の立ち上げには、アイデア創出や市場調査、自社の強みや弱みの把握などを素早く、かつ的確に行う必要があります。これらのプロセスを効率的に実行するうえで役立つのが、フレームワークです。

最後に、新規事業の立ち上げに役立つフレームワークをご紹介します。

SCAMPER法

SCAMPER法とは、 以下の7つの設問に回答して、アイデア発想を行うフレームワークです。

Subustitute 何か代用できるものはあるか?
Combine 何かと何かを組み合わせることはできるか?
Adapt 他の何かを応用できるか?
Modify 何かを修正・変更することはできるか?
Put to other uses 何かに転用することはできるか?
Eliminate 何かを削減することはできるか?
Reverse, Rearrange 何かを逆転・再編成することはできるか?

7つの切り口に沿って強制的に発想をずらしてアイデア創出ができるため、通常ではなかなか導き出せないようなアイデアを生み出せるでしょう。SCAMPER法でアイデア創出を行う際は質の良し悪しはいったん考えず、とにかくたくさんアイデアを量産したあとに、それぞれのアイデアについて評価するのがおすすめです。

アイデア創出が行き詰まったタイミングで活用できる方法といえます。

ペルソナ分析

ペルソナ分析とは、事業のターゲット像として年齢や性別、趣味、価値観など細かくプロフィールを作成した具体的な顧客像を設定し、製品・サービスのコンセプトを導き出すフレームワークです。

たとえば、「東京都在住の30代前半、趣味は映画鑑賞の女性」と「静岡県在住の30代前半、趣味は登山の女性」では、それぞれニーズが異なることが想定されるでしょう。

ペルソナを細かく設定すれば、顧客目線でサービス設計ができるようになり、顧客のニーズや動向に対して精度の高いマーケティング戦略の立案が可能になります。

ただし、根拠が不明瞭な状態でペルソナを設定してしまうと、精度が低下するおそれがあります。新規事業で提供する製品・サービスが大衆向けかニッチな層向けかによって、ペルソナの詳細設定のレベルを合わせることが重要といえるでしょう。

ポジショニングマップ

ポジショニングマップとは、ターゲットとなる市場において、自社と競合他社の製品・サービスがそれぞれどこに位置づけされるかをマップに落とし込み、明確にするフレームワークです。

顧客が、製品・サービスを購入する際に重要視する2つの要素を縦軸・横軸に設定します。縦軸と横軸を十字に置いて4象限を形成し、競合他社の製品・サービスの位置づけをマッピングすることで、自社の製品・サービスがどこを目指すべきかを検討できるようになります。

ポジショニングマップを活用するうえでもっとも難しいのが、縦軸と横軸に設定する2つの要素の選定でしょう。購買決定要因として主に挙げられるのが、価格帯やデザイン・機能などの性質、利用シーン、サポートの充実性、実績などです。

上記にくわえて自社の強みや強化したいポイントを軸に設定することで、自社にとって競争優位性の高い独自ポジションを目指しやすくなります。

VRIO分析

VRIO分析とは、「Valuable(価値)」「Rare(希少性)」「Inimitable(模倣可能性の低さ)」「Organized(組織)」の4項目から、製品・サービスや経営資源の価値を分析する際に活用できるフレームワークです。

新規事業を成功させるには、自社の製品・サービスが持続的な競争優位性を維持できることが必要不可欠です。ヒト・モノ・カネ・情報といった自社の経営資源をどれだけ有効活用できるかを分析することで自社の強みや弱みを把握できるため、競合他社に対して強みを活かして差別化をはかり、弱みをカバーして業務改善につなげられるでしょう。

バリューチェーン分析

バリューチェーン分析とは、事業を工程ごとに分けて分析するフレームワークです。

製品・サービスを生産してから顧客が購入するまでの企業活動の流れを主活動と支援活動の2つに分けます。たとえば、製造業であれば、原材料、調達、製造、物流、販売といった一連の流れを主活動に位置づけ、人事・労務管理や技術開発など間接的な業務を支援活動に位置づけるのです。それぞれの工程でどのような価値が生み出されているかを分析することで、利益性のある活動や課題のある工程が把握できるようになります。

自社の強みと弱みの把握にもつながり、競争優位性の強化や無駄なコストの削減がはかれるでしょう。経営資源を再分配できるメリットもあるため、効率的な新規事業の運営に役立ちます。

まとめ

新規事業を立ち上げて軌道に乗せることができれば、企業の持続的な発展や経営人材の育成につながります。しかし、新規事業を成功させるのは決して容易ではなく、十分な準備とリソースの確保にくわえて、独自性のあるアイデアの創出や細やかな軌道修正の積み重ねが必要です。

また、新規事業を効率的に進めていくには、フレームワークを活用しながらプロセスを順に踏んでいくことが重要といえるでしょう。自社の強みや弱みの把握、市場や競合の分析を行うことで、競合優位性を保ちながら新規事業を展開しやすくなります。

新規事業の成功率を高める本記事でご紹介したポイントを参考に、ぜひ新規事業の立ち上げに取り組んでみてください。

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