星野温泉が一大リゾートへと成長できたワケ――星野リゾートの拡大に学ぶ “整理” の力

雄大な浅間山を望む長野県・軽井沢で生まれ、100 年以上の歴史を重ねてきた星野温泉――その名は、今や国内外に69施設を擁するリゾート運営グループ「星野リゾート」のルーツとして知られています。

しかし1990年代初頭、同社は老朽化と市場環境の変化に苦しみ、経営の岐路に立たされていました。そこに現れたのが、米国でホスピタリティを学び帰国した四代目・星野佳路氏です。若きリーダーは、時代遅れとなっていた旅館をどう未来型リゾートへ導いたのか。

本稿では、本稿では、4 代目社長・星野佳路氏が実践した“整理による再生”を通して、軽井沢発の小さな温泉旅館がいかにして世界水準のブランドへ生まれ変わったのかを紐解きます。

目次

かつて経営不振に陥っていた星野温泉

1914 年、水力発電所を併設した「電灯の点く湯治場」として誕生した星野温泉は、戦後に高原教会ブライダルで人気を博し、一時は軽井沢の象徴的存在となりました。しかし1980年代末、バブル崩壊と大型リゾート乱立が重なり、経営は急速に悪化します。

  • 収益構造の偏重

ブライダル部門が売上の約60 %を占めていたため需要が縮むと同時に資金繰りが急速に悪化し、月次キャッシュフローは赤字に転落しました。 

  • 商品・サービスの陳腐化

老朽客室と平均40 %台に沈んだ稼働率が収益を圧迫し、顧客アンケートには「料理がまずい」「接客が遅い」など不満が並びリピート率も低下しました。

  • 閉鎖的な組織文化

年功序列と同族経営の色彩が強く、変革を掲げた若き四代目への反発で社員の3分の1が退職、残留社員の士気も下がるという事態が生じました。

三重苦が絡み合った結果、資金繰りは慢性的赤字に陥り、「どこから手を付ければいいのか分からない」という“課題の迷宮”に迷い込んでいたのです。

星野佳路氏の就任後になされた具体的な戦略

こうした状況の中、星野氏が1991 年に社長へ就任して最初に行ったのは、「現状可視化し論点を絞り込むこと」でした。顧客・従業員アンケートを数値化し、売上構成とコスト構造を洗い直すことで、打つべき手の順番を明確化します。

  • 現状把握に基づくサービス接客の改善

顧客・従業員アンケートを徹底し、不満点と期待値を数値化。感覚論ではなくファクトで論点を洗い出しました。 そして、顧客アンケートで不満が最多だった料理と接客に集中投資。料理長を交代し地元食材主体のコース料理に刷新したほか、フロントと客室係に接客マニュアルを導入しました。スタッフは客前での敬語や動作を動画で相互フィードバックし、3カ月でクチコミ評価が平均2点(5段階中)改善したといいます。

  • “運営特化”への大胆な舵切り

「資産を持たず運営に専念する」という考えの下、自前での大型投資を凍結。銀行団には運営収益モデルの再建計画を提示し、既存債務のリスケに成功すると同時に、外部オーナー施設の運営受託によって拠点拡大の資金負担を限りなくゼロにしました。

  • ブランド・ポートフォリオ戦略

創業の地を全面建替えした「星のや軽井沢」(2005) を旗艦に、高級旅館「界」、ファミリー型「リゾナーレ」、都市観光「OMO」、ミレニアル向け「BEB」へと多層展開。顧客体験をブランドごとに最適化し、市場変動リスクを分散しました。

  • 自律型組織への転換

改革の過程で、立候補制ディレクター(UD)という制度を導入し、社員が400点満点で自己評価シートを作成し、役員面接に挑む仕組みが作られました。これにより離職率は10%台から5%未満に低下、自発的な新サービス提案は年間50件を超え、現場に「自分事化」の文化が浸透しました。

これらの施策は「現状を整理し→優先順位を定め→再現性のあるモデルへ落とし込む」という一貫した設計思想の上に成り立っていました。

こうした戦略の連鎖により、星野リゾートは就任当時1施設だった運営拠点を2024 年には国内外69施設へ拡大し、従業員数は5,000人規模に成長。平均客単価も1.4万円台からブランド別に3〜12万円台へ引き上げ、キャッシュフローは健全化しました。

星野リゾートの教訓:「整理」は”経営の背骨”になる

星野リゾートの軌跡が示す最も大きな教訓は、「整理」が単なる“現状分析”にとどまらず、その後の サービス品質改善・投資判断・組織づくりまでを一貫してドライブする“経営の背骨”になり得るという点です。

  • 論点の束ね方

 星野氏は可視化した課題を「サービス品質/資本戦略/組織制度/地域再生」の4テーマにグルーピングし、費用対効果と時間軸で着手順を定めました。テーマ間の補完関係を意識した設計により、施策同士が相互にレバレッジを掛け合う仕組みが生まれました。

  • 組織の自己整理メカニズム

 立候補制ディレクターや“価値観カード”の導入は、社員一人ひとりが自分の仕事を整理し次の挑戦を言語化するプロセスを埋め込み、拡大局面でもサービス品質をぶらさない土台になっています 。

環境変動が激しい時代ほど、整理がもたらす“判断の軸”は組織の俊敏性と再現性を支える決定的なレバレッジとなるのです。

もし自社の課題をどう束ね、どこから手を付けるかで立ち止まっているなら、一度立ち止まって「整理」の時間を設けてみるのはいかがでしょうか?

そうした整理に腰を据えるのが難しいと感じる場合は、気軽にコンパスシェアのコンサルタントにご相談ください。
市場分析のノウハウ、戦略づくりのフレームワークなど、経営・事業に関する豊富な知見に基づいて、貴社にカスタマイズされた整理のアドバイスを得ることができます。

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